【コラム】刑の一部執行猶予とは?

2019-03-01

「クスリはやめられない。」私たちは何度もそう注意喚起され、危険性について十分認識しているはずです。

しかし、覚せい剤や大麻、危険ドラッグなどは、一般の人が思っている以上に身近にあります。そして、安易な気持ちでクスリを使用してしまった人が、同じ罪を繰り返してしまうことが多いのも事実です。

 現在、日本の刑事裁判では、覚せい剤などの薬物を自ら使用したり、自ら使用するために所持したりといった事件の初犯者であれば、起訴されて裁判所で審理を受ける場合でも、執行猶予がついて服役を免れる可能性はあります。

 

しかし、先に述べたように、覚せい剤などの事件は再犯率がとても高く、2回目、3回目と同じ罪を犯してしまう人がたくさんいます。2回目、3回目の裁判ともなれば多くの場合に実刑判決となり、刑務所に収監されます。そして、服役して更生を誓ったはずの人たちも、社会に出れば再び薬物に手を染めてしまい、刑務所に舞い戻る…という事例が後を絶ちません。

このような現状に対して、薬物依存者の更生には、刑務所に収監するだけでは不十分なのではないかという指摘がありました。薬物依存者に必要なのは、収監ではなく治療であり、専門治療施設等への入所・通院を前提として、その分服役期間を短縮するという方法が再犯率の減少に効果があるのではないかという指摘です。 

このような問題点を踏まえて、2016年6月1日から、刑の一部執行猶予制度の導入等を内容とする「刑法等の一部を改正する法律」及び「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部執行猶予に関する法律」が施行されました。

今までは、言い渡された刑期を原則として刑務所で過ごす実刑判決か、刑期の全部を執行猶予とするかの2つの選択肢しかありませんでした。しかし、この法律の施行により、一定の犯罪(薬物事犯に限りません。一定の薬物事犯については、異なる要件が定められているものがあります。)について3年以下の懲役・禁固を言い渡すときは、判決でその刑の一部の執行を猶予することができるようになりました。

例えば、「2年の懲役刑で、そのうち6か月の執行を猶予する」という判決の場合には、判決後、先に1年半の間刑務所に収監され、その後6か月を残して社会に戻る(多くの場合に保護観察が付きます。)、ということになります。

立法過程の議論では、この制度は、従来の枠組みで実刑相当とされていた事件について付されるもの、とされています。つまり、これまでの制度で全部執行猶予が見込まれた事件ではなく、実刑が見込まれていたような事件で、一部執行猶予になる余地があるということです。

すでに述べた通り、この制度では、特に薬物事犯における再犯防止への効果が期待されています。薬物事犯では、刑の一部執行猶予期間中は必要的に保護観察が付きます。そのため、少しでも短い期間で刑務所から社会復帰して、社会内で薬物処遇プログラムを受け、薬物処遇重点実施更生保護施設に入所するなど、再犯防止に向けた専門的な治療を受けることが可能になるのです。

従来であれば実刑が予想された依頼者について、積極的に刑の一部執行猶予判決を求めていく事例も当然でてきます。一部執行猶予が狙える事件なのかどうかは、法律の条文を丁寧に確認することが必要です。

当事務所でも、こうした新しい制度については随時知識をブラッシュアップし、適切な対応をとれる体制を整えています。

 

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