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【コラム】ひったくりで無期懲役!?

2016-12-26

「強盗」と聞くと、ナイフで店員さんを脅してレジからお金を取って…と、非常に物騒な犯行態様を想像する人が多いと思います。しかし、強盗罪が成立するのは、そのような場合のみに留まりません。

 

強盗罪(刑法236条1項)の成立には、財物奪取に向けた暴行・脅迫が必要です。また、この暴行・脅迫は、相手の反抗を抑圧するに足るものでなければならないとされています。先の例でいうナイフで脅すという行為は、相手に恐怖を与え、相手の反抗を抑圧する ものですから、まさに強盗罪が必要とする脅迫にあたります。

 

お金を取る手段として、比較的気軽に行われてしまうのがひったくりです。

 

通常の(スムーズに行われた)ひったくりの場合、犯人はカバン等の荷物を掴んで走り去るだけですから、相手方の反抗抑圧に足る暴行は認められません(この場合は単なる窃盗罪になります)。しかし、被害者が荷物にしがみついて奪われるのを阻止していたような場合に、被害者を振り払おうとして引きずってしまったり、暴力を振るったりすると、相手方の反抗抑圧に足る暴行があったとされ、強盗罪とされる可能性があります。

 

また、そのように暴行があったとされ、被害者が何らかの怪我をしてしまったような場合には、強盗致傷罪(刑法240条前段)という罪になる可能性があります。強盗致傷罪は、裁判員裁判の対象事件にもなっている重い罪です。

 

さらに、被害者が転倒して頭を打ったりして、そのまま亡くなってしまったような場合には、強盗致死罪(刑法240条後段)という罪が成立する可能性もあります。

 

人を殺すつもりなどなかったとしても、ひったくりの機会に行われた何らかの行為で被害者が死亡してしまったような場合には、強盗致死罪が成立する可能性があるのです。強盗致死罪は、死刑又は無期懲役という非常に重い法定刑が定められています。

 

ちょっとしたお小遣い稼ぎに…と軽い気持ちでひったくりをした結果、被害者が亡くなって取り返しのつかない事態になる、ということは、決して珍しいことではありません。もちろんそのような犯罪行為に手を染めないことが一番ですが、自分としては軽い気持ちでやったひったくりによって、取り返しのつかない重い罪を負うことになる可能性があるということです。

 

このような場合に、自分ではごく軽い罪にしか当たらないと思って警察に話をしていたら、「強盗罪にあたる事実を認めた」という内容の自白調書が作られてしまう恐れがあります。そして、その自白調書に基づいて、自分では思ってもいなかったような重い罪名で起訴される(裁判にかけられる)ことも十分にあり得ます。

 

ひったくりで逮捕された、というような場合には、すぐ刑事弁護に精通したに弁護士に相談することが肝心 です。

【コラム】TPPと知的財産権

2016-02-18

1 TPPと知的財産権

TPPは、貿易の自由化を推進するために、国内市場を閉鎖的にする規制の撤廃や貿易の自由化を推進するための措置を加盟国に要求します。

そのため、TPPの締結による国内産業への影響が危惧されています。特に、農業や医療分野への影響がよく報道等で取り上げられていますが、知的財産分野にも「著作権侵害の非親告罪化」や「著作権保護期間の大幅延長」等、大きな影響が生じることが指摘されています。

その中でも、「著作権侵害の非親告罪化」は、特に重要な論点です。今回はこの点についてご説明します。

2 「著作権侵害の非親告罪化」

親告罪とは、被害者等からの告訴がなければ検察官が起訴することができない犯罪のことをいいます。親告罪が告訴なしに起訴された場合、その訴訟は、訴訟条件を欠くため、公訴棄却の判決により具体的な審理に入ることなく訴訟が打ち切りになります。

このような親告罪が認められている根拠はさまざまであり、犯罪の性質上、被害者の名誉を尊重する趣旨である場合(名誉棄損罪、強姦罪等)や軽微な犯罪である等の理由で訴追するかどうかを被害者の意思で決定しようとする場合(器物損壊罪等)があります。

著作権侵害の場合、大規模な海賊版の領布から論文の剽窃行為まで侵害の態様は多様で、中には表現物として著作権者が容認している場合もあります。

このように、著作物については表現の自由に関わる問題であることも踏まえ、著作権者に処罰の要否の判断を委ねるべきとの要請があります。また、著作物が著作者の全人格が反映されていること(「著作者人格権」といいます)からすると、訴追によって事実関係が明るみになることによって、かえって著作権者の権利を害することもあるとも考えられてきました。

そのため、これまでは、被害者が処罰を希望していないときにまで国家権力が処罰を行うことは妥当でないと考えられてきました。

一方で、ご存知のとおり、海外で製作された海賊版のDVD等が広く溢れています。このような状況の中で、著作権者が告訴しない限り、著作権侵害を取り締まることができないというのは、著作権保護強化の観点から不十分です。

そこで、被害者の告訴がなくても、検察官が自由に訴追できるようにすることで著作権の保護を手厚くしようと、著作権侵害の非親告罪化が主張されています。

しかしながら、このような非親告罪化の主張に対しては、実際には、著作権侵害の非親告罪化は著作権の保護の強化に効果的でなく、また、同人誌の製作等の二次創作活動への委縮効果や捜査機関による著作権侵害の恣意的運用のおそれがあると強い批判が加えられています。

他方で、一部悪質な事例についてのみ非親告罪化を進めるべきではないかという議論もあります。日本弁護士連合会も、平成19年2月に著作権事件の非親告罪化に反対する声明を出しています。

3 最後に

著作権侵害の非親告罪化により、思いがけないところに著作権侵害として処罰されるリスクが生じるかもしれません。たとえば、これまで処罰の対象にならなかったパロディーや、動画をウェブにアップロードする行為も、著作権者の告訴なく処罰の対象となる危険があります。

万が一、あなたやあなたの大切な方が著作権侵害により処罰されてしまいそうになった場合、速やかに弁護士にご相談下さい。弁護士は、著作権侵害の有無について見通しを立て、不当な処罰がなされないように断固として戦います。

【コラム】共犯事件と弁護活動

2016-01-07

1 共犯とは

共犯とは、複数の人物が一つの犯罪に関与する形態の犯罪です。共犯には、関与の仕方によって、大まかには、自ら犯罪を実現する意思を持って共犯者と意思を連絡して犯罪を行う「共同正犯」と、従たる立場で正犯者の犯罪の実現に関与する「幇助犯」「教唆犯」があります。

「幇助犯」とは、正犯者の犯罪の実現を容易にしたもの(例えば、犯罪現場からの逃走を手伝ったなど)、「教唆犯」とは、正犯者をそそのかして犯罪を実行させた者のことです。

 

2 共犯事件の難しさ

(1)共犯者の間での利益の対立のおそれ

共犯事件では、共犯者ごとにそれぞれ言い分がありますし、利害関係も様々です。特に、共犯者の間でも利害が対立することはよくあることです。典型的には、共犯者それぞれが罪を軽くしようと考えた結果、双方が「主犯格は自分ではなく共犯者である」と押し付け合う場面がそれに当たります。
自白をするかどうかの場面では、他の共犯者がいかなる供述をしているかが関心事になります。

これらの状況は、現実の事件でも十分に起こりえます。共犯事件で被疑者・被告人という立場に置かれた方は、自分がどのように振る舞えば最も利益になるかを判断しなければなりません。

(2)厳しい身体拘束のおそれ

共犯事件では、共犯者全員まとめての身体拘束に発展することが少なくありません。捜査機関は、共犯者が互いに連絡を取り合い、証拠隠滅をすることを強く警戒します。そのため、単独犯であれば身体拘束にまで発展しないような事件についても、主犯に対する捜査の飛び火で逮捕・勾留の手続が取られることもあります。

さらに、共犯事件は込み入ったものが多く、捜査は時間がかかりがちです。したがって、身体拘束が単独犯に比して長くなる傾向にあり、勾留の延長がされやすかったり、保釈がされにくかったりといった不利益を受けることが多いです。また、接見禁止が付くケースが非常に多く、家族や友人の方の面会は大幅に制限されます。

 

3 共犯事件における弁護活動

共犯事件においては、弁護人としても共犯事件ならではの難しさがあります。そして、その難しさは、共犯者間でいかに自身の利益を実現するかというだけにとどまりません。

(1)複数の共犯者からの受任について

一人の弁護士が、複数の共犯者の弁護をすることは、原則としてできません。なぜなら、共犯者の利害が互いに対立することは決して少なくないからです。典型的には、2人の共犯者が互いに「主犯はあいつだ」と言っている場合に、両方の弁護人を引き受けると一貫した主張ができなくなってしまいます。これでは、弁護人はもはや依頼者の味方と呼べません。

このような場合、共犯者の弁護人間で必要な範囲で協力して対処するか、個別に対処することとなります。他方で、非常に稀ですが、一部の共犯者間で利害が完全に一致している場合には、かえって複数の依頼者からまとめて依頼を受けるべきケースもあります。弁護人にとっては、その見定めにあたって、非常に厳しい判断を迫られることになります。

(2)身体拘束からの解放

上記のとおり、共犯事件では厳しい身柄拘束を受けがちです。その早期解放を目指すことは、弁護人にとって非常に重要です。勾留が始まるまでに、裁判官と面談をしたり、勾留が決定されてしまったら、勾留の開始決定に対して準抗告という異議申立てを出したり、逮捕後事情が変わったとして勾留の取消請求を出すこともあります。さらに、勾留が延長されたことに対してさらに準抗告を出すことや、起訴後に保釈請求をするなど、身体拘束に対して弁護人は臨機応変に対応することが求められます。

(3)裁判手続

共犯事件においては、併合審理(他の共犯者と一緒に裁判を受ける)を選択すべき場合と、手続を分離(裁判所に、他の共犯者とは別に審理をして欲しいと求める)すべき場合があります。そのどちらを選択し、いかに裁判所を説得するか、ここも弁護人として訴訟戦略的に難しい判断を迫られる場面です。

また、特に併合審理をする場合には、共犯者の弁護人が一堂に会することになります。他の弁護人に明らかに劣っては、自分の依頼者に有利な結論が導かれることはありえません。弁護人にとっては、法廷で力量が問われる一場面となります。

【コラム】被害者参加制度と弁護士

2015-12-10

1 刑事裁判と犯罪被害者

刑事裁判は、検察官が被告人を起訴し、裁判所が、当該被告人が有罪であるかどうかを判断するという仕組みです。
犯罪被害者は、従来、証人として法廷に呼ばれて、質問される範囲において証言することができるだけで、それ以外に刑事裁判に関与することができませんでした。

しかし、平成19年6月に、「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」が成立し、犯罪被害者も一定の範囲で刑事裁判に参加することができるようになりました(「被害者参加制度」)。

 

2 被害者参加制度の概要

(1)被害者参加人となることができる者の範囲

刑事裁判に被害者参加できるのは、被害者等(被害者本人、被害者に死亡又は重大な心身の故障という重大な結果が生じた場合はその配偶者・直系の親族及び兄弟姉妹)、被害者等の法定代理人、被害者等から委託を受けた弁護士です。

(2)被害者参加できる犯罪類型

被害者参加制度を利用することができる犯罪類型は、故意の犯罪行為により人を死傷させた罪、業務上過失致死傷罪、自動車運転過失致死傷罪、強姦・強制わいせつ等の性犯罪、逮捕・監禁罪、略取・誘拐罪等に限定されています。

(3)被害者参加人としてできること

被害者参加人は、検察官の権限行使について意見を述べることができるほか、裁判に出席して(傍聴席ではなく当事者として法廷内で着席することができます。)、以下の事項を行うことができます。

①証人尋問
  被害者参加人は、証人に対して、情状(刑の量定にあたって判断すべき事項)に関する事項について、直接尋問を行うことができます。
 

②被告人質問
  被害者参加人は、被告人に対して、犯罪事実・情状に関する事項について、直接尋問を行うことができます。

③意見陳述
  被害者参加人は、最終意見陳述として、犯罪事実や法律の適用及び被害者参加人が適当であると考える求刑について意見を述べることができます。

 

3 被害者参加制度と弁護士

刑事裁判は法律に基づく複雑な手続であるため、一般の方が参加しても十分な活動ができるのか不安をお持ちになる方も少なくありません。
また、被害者が加害者にかかわる場面は、上記の外にも、加害者又はその代理人との示談交渉、少年事件における家庭裁判所での手続、賠償命令制度の利用などの民事手続、ケースによってはマスコミへの対応が必要になることもあります。

そこで、刑事裁判の専門家である弁護士が、犯罪被害者の皆さまの痛切な思いを伝えるお手伝いをいたします。弁護士費用を支払うことが困難な犯罪被害者のために、国選被害者参加弁護士の制度もありますので、被害者参加制度の利用をご希望される場合は、是非一度弁護士にご相談ください。

【コラム】法律の改正と適用法令

2015-10-29

法律は、社会の動きとともに新たに制定されたり、改正されたりします。

たとえば、悪質な運転による交通事故の多発をきっかけに、飲酒や薬物の影響による危険な運転等を規制する声が高まり、危険な運転等を重く罰する法律である自動車運転死傷行為等処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)が制定され、2014年5月に施行されました。

また、ダンスホールの営業時間などを規制していた風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、規制を設けた当時のダンスホールと現在の「クラブ」などとでは、営業の態様が異なるものもあり、店内の明るさなどによって適用対象となる店を分類するなどの改正風営法が今年6月に成立し、近く施行される見込みです。

 

このように新たな法律が制定されたり、法律が改正されることはよくあることです。

そして、自動車運転死傷行為等処罰法も風営法もいずれも罰則を含む法律であり、当該法律に違反すると犯罪になります。

ところで、これらに限らず刑罰法規に違反した犯罪行為があり、行為から裁判までの間に法律が新たに制定されたり、改正された場合には、いかなる法律が適用されるのでしょうか。

 

この点、刑罰法規の適用は、裁判の時に有効な法律ではなく、行為の時に有効であった法律を適用する、というのが原則です。

まず、行為の時に法律が有効でないということは、行為時には当該法律が自分に適用されるかわからないということです。それにもかかわらず後に当該法律を適用されるとなると、誰もが後の法律の制定や変更を怖れて身動きがとれなくなり、不当に過大な制約を受ける結果になります。このことは、行為の時に犯罪とされていなかったにもかかわらず、後に当該行為を犯罪とする法律ができた場合を考えるとよくわかります。つまり、行為の時は犯罪ではないとされていたため、当該行為を行ったにもかかわらず、後に、「当該行為は犯罪とされました」、として処罰されるのは不当ということです。

したがって、原則として、裁判時の法律を行為時に遡って適用することはありません。これを「遡及処罰禁止の原則」と言い、非常に重要な原則です。

しかし、例外として、行為後の法律改正により、刑の重さに変化があり、行為時よりも軽くなった場合には、行為者に有利な方向に考え、裁判時の法律を適用します。つまり、行為時の罰則より裁判時の罰則の方が刑が軽い場合には、裁判時の刑を適用し、逆に行為時の罰則の方が刑が軽い場合には、遡及処罰禁止の原則通り、行為時の刑を適用するのです。行為の時点の罰則と裁判の時点の罰則とを比べ、刑が軽い方の法律を適用するということです(刑法6条)。これは、法律を遡及的に適用することが行為者に有利である場合に認められる例外と言えます。

 
ただし、法律の改正により刑の変更があった場合でも、改正法の中に「この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による」とか「この法律の施行前にした行為に対する罰則の適用については、旧法は、この法律の施行後も、なおその効力を有する」などという条項が設けられている場合があります。この場合には、裁判の時点で法改正により刑が軽くなっていたとしても、従前の刑、つまり重い方の刑が適用されるので注意が必要です。

【コラム】前科・前歴と社会生活

2015-10-15

過去の犯罪歴に関する「前科」「前歴」といった用語が指す範囲は、法律上明確に定義されているものではありません。その経歴が犯罪歴として扱われるかは、場面によって変わってきます。

 

たとえば、刑事裁判で有罪判決を受け禁錮以上の刑(禁錮・懲役・死刑をいいます。罰金・科料は除きます。)を言い渡された場合には、公職選挙法において公職の選挙権が制限されますし(公職選挙法11条1項)、警備業法において警備員の職に就く場合の制限があります(警備業法14条1項3条2号)。

 

これに対して、警察などの捜査機関による捜査の過程では、有罪判決を受けた場合だけでなく、警察に逮捕されたり、書類送検(ニュースなどで耳にしますが、逮捕・勾留されずに、事件を検察官に送致することを指します)されたりするケース、未成年の頃に少年審判を受けたケースを犯罪歴として広く捉えているようです。

 

また、就職やアルバイトをする際の履歴書の「賞罰欄」に過去の犯罪歴の記載を求められることが多く、これを記載しなかった場合には、経歴詐称として懲戒事由に当たる可能性があります。

 

ただし、実際に、経歴詐称として就業先から懲戒されるかは、詐称の内容や職種などに即して具体的に判断するとするのが判例(最判平成3年9月19日)です。裁判例の中には、少年時代の非行歴を履歴書に記載せず就業先に告知しないまま採用され、その後、非行歴を秘匿していたことを理由の一つとして解雇されたケースで、少年法の目的などを加味し履歴書の賞罰欄に少年時代の非行歴まで記載すべき義務があるとはいえないとされたものもあります(福地判昭和49年8月15日)。

 

なお、自動車の駐車禁止区画に駐車した場合(いわゆる「駐車違反」)などの道路交通法違反で警察官から告知(いわゆる青切符)を受け反則金を支払っても、それは「過料」(行政罰)であって、「罰金」(刑罰)ではなく犯罪歴にはなりません。

 

一口に「犯罪歴」といっても、場面によって含まれる内容は異なります。上記のように、禁錮以上の刑を言い渡された場合にのみ制限があるのに、「罰金」刑であっても制限があると誤解している場合や、自分では「罰金」(刑罰)だと思っていても、単なる「過料」(行政罰)で犯罪歴とはならない場合もあります。

 

気になることがあったら一人で抱え込まず、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。

【コラム】逮捕されたらどうしよう?

2015-08-20

1 逮捕とは

「警察に逮捕されてしまったら終わりで、もうどうしようもない。」
こんな風に考えていませんか。

断言します、この考えは間違いです。
逮捕というのは、その時点の手持ちの捜査資料に基づいて、犯罪を犯したと警察が判断した人が、逃亡したり犯罪の証拠を隠滅したりしないように、身柄を確保する手続きです。

なぜ警察が逮捕するかというと、最終的にその人を裁判所に起訴して処罰を求めるかを判断するためです。刑事ドラマは犯人を逮捕して終わりですが、現実の刑事裁判手続では逮捕後に本格的な捜査が始まります。警察は、逮捕後48時間以内に検察官に事件を送り、検察官は24時間以内に身柄の拘束を裁判所に請求するかどうかを決め、検察官がその請求をした場合には裁判官が10日間(延長された場合は最大20日間)の身体拘束の可否を判断します。

逮捕されてしまったとしても、言い分を主張していくことができます。逮捕の時点で、その言い分が考慮されていなかった場合、身体拘束を継続すべきない、あるいは裁判所に起訴すべきでないと判断される可能性があります。もし身に覚えのない理由で逮捕されてしまったり、何かやむを得ない理由がある場合には、そのことを強く主張していかなければなりません。一方で、その主張自体が「自白」や「弁解」として起訴し裁判にかけるための証拠になりますから、防御のために黙秘することが有用な場合もあります。

しかし、警察や検察は、逮捕された人を狭い部屋に押し込んで自由を奪い、取調官は恫喝や甘言を交えながら執拗に取り調べを行うことがしばしばあります。ときには、取調官が自分の思うとおりのストーリーの供述調書を作成し、それに署名を強要し、指印を押させて調書をねつ造することさえあります。そのような不当な取調官の対応がなかったとしても、初めて逮捕された状況下では、どんなにもっともな言い分があったとしても、それを十分に伝えたり、逆に黙秘をすることは現実的に困難であると言わざるを得ません。

 

2 弁護士の役割

弁護士は、当事者の生の言い分を法的に再構成する専門家です。逮捕された方の言い分が取調官や裁判官に伝わるように法的な主張として組み立てたり、取調官の違法な取調べを糾弾したりすることで、言い分が正しく伝わるようにするお手伝いしたり、不本意な自白や弁解が証拠にならないようにサポートします。

また、緊急の伝言等を承ることで、狭い部屋に押し込められて心細く思っている方の心のケアも行うことができます。

加えて、逮捕後、速やかにご依頼いただいた場合には、逮捕後72時間以内になされる検察官の身体拘束継続のための請求(勾留請求)を阻止したり、裁判所の身体拘束継続の判断(勾留決定)を阻止するための資料を用意し、検察官や裁判所に提出します。

このように、早期の身体拘束からの解放のためにも、また不本意な自白や弁解が不利な証拠として作られないようにするためにも、逮捕後、出来るだけ早く、経験豊富で、かつフットワークの軽い弁護士に依頼することが大切です。

【コラム】即決裁判手続とは何か?

2015-08-06

1 即決裁判手続とは

 

即決裁判手続とは、犯罪の内容があまり重大なものではない(万引きや覚せい剤自己使用、道路交通法違反など)場合で、本人が犯罪を起こしたことを認めており、有罪になることが証拠から明らかな場合に、手続きの合理化・迅速化を図るためできた制度です。

 

検察官が即決裁判手続とする方針を決定し、被疑者と弁護人がこれに応じれば、検察官が処罰を求めるために裁判所に訴えを起こし(起訴といいます。)、14日以内に公判期日を開き、同日に判決が言い渡されます。なお、裁判においては、弁護士を必ず付けなくてはならないことになっています。

 

2 即決裁判手続のメリット・デメリット

 

(1)即決裁判手続のメリット

即決裁判手続の最も大きなメリットは、早く手続が終わることです。起訴から14日以内に裁判が開催されることとなっており、即日の判決が原則です。通常の公判では、犯罪を起こしたことを認めていたとしても、起訴されてから判決までは1ヶ月以上の時間がかかることがほとんどですので、期間はかなり短縮されます。裁判自体も通常は30分程度で終わり、通常事件の審理よりもやはり短くなっています。身体拘束をされていて、判決まで留置場や拘置所から出られない場合は、期間が長ければ長くなるほど、仕事など身の回りに大きな影響を及ぼしますので、早期の終了のメリットは大きいと言えます。

 

さらに、即決裁判手続の中で裁判官が懲役刑または禁錮刑を言い渡す場合は、執行猶予をつけなければならないとされている点もメリットです。ただし、情状などから裁判官が即決裁判手続を取消し、通常手続に移行する場合もあります。即決裁判手続に決まったというだけでは、確実に執行猶予となるとは限りませんので注意が必要です。

 

(2)即決裁判手続のデメリット

デメリットとしては、仮に判決で宣告された事実に誤りがあると思ったとしても、それを理由にして、上級裁判所に不服を申し立てること(上訴)ができない点が挙げられます。量刑が重すぎる、裁判が法律に違反しているという理由での上訴は可能ですが、上訴のための理由が制限されるというデメリットはあります。

 

3 即決裁判手続における弁護活動

 

弁護人は、検察官から即決裁判手続にするという話があれば、事件の内容等から、即決裁判手続に応じるべきかどうかの助言をするほか、弁護人自身も、即決裁判手続に同意するかどうか慎重に判断をします。

 

また、上記のとおり、即決裁判手続とすることが決定したとしても、必ず執行猶予がつくわけではありません。情状次第では即決裁判手続が取り消されるおそれがあるのです。

 

即決裁判手続における情状弁護の方針は、弁護人によってまちまちであり、情状弁護を不要とする考えもあります。しかし、確実な執行猶予を目指すのであれば、裁判までの短い期間の中で適切に情状弁護を行うことのできる私選弁護人を依頼することも一つの手段であると思います。

【コラム】子どものいたずらと少年犯罪

2015-07-01

中学生3年生のA君は、一万円札とよく似た色やデザインであるものの、「百万円札」と書かれたおもちゃのお札を使って、コンビニで100円のお菓子を買い、9900円のお釣りをもらいました。A君が「店員に、おもちゃのお札だとバレるだろうけど、とりあえず使ってみよう」と思い、試しにレジで差し出してみたら、店員さんは、一万円札だと思って商品とお釣りをくれたのです。

後から、おもちゃのお札だと気付いた店員さんが警察に通報し、A君は、警察から事情を聞かれる事態になってしまいました。

 

偽札を使った事件は、度々ニュースなどでも報道されています。過去には、本件のように、おもちゃの「百万円」札を使って両替えをした事件もあったようです。

偽造された日本国内で通用する通貨等(貨幣、紙幣、銀行券(日本銀行発行の千円札・五千円札・一万円札などのこと))を、お店などで使った場合には、「偽造通貨行使等罪」(刑法148条2項)に問われる可能性があります。偽造とは、一般の人が本物と誤認する程度に、通貨に似た外観のものを作成することをいいます。

偽造通貨行使等罪の法定刑は「無期又は3年以上の懲役」と、大変重いものとなっています。

この法定刑の重さは、通貨への信用が社会にとって非常に重要であることを表しています。世の中で使われている通貨等は本物であるという信用があるからこそ、お店で欲しい物を売ってもらえたり、レストランで美味しいものが食べることができたり、お年玉を貰ったら嬉しいのです。

 

では、今回のケースはどうでしょうか。

今回は、一万円札に似たお札をコンビニで差し出して買い物をしていますので、偽造通貨行使等罪が成立するおそれがあります。
しかし、お札には、「百万円」とはっきり書いてあります。現在の日本に「百万円」札と書かれた紙幣や銀行券は存在しませんので、一般の人が本物の一万円札だと誤認するとは限りません。つまり、偽造された通貨等といえない可能性があります。

また、現在の日本では「百万円」札という紙幣や銀行券は、発行されていませんので、日本国内で通用する通貨等ともいえない可能性があります。
もし、このように「偽造された」「通貨等」でないと評価できるものであれば、偽造通貨行使等罪は成立しません。

 

次に、仮に偽造通貨行使等罪が成立しなかったとしても、他に、何か犯罪は成立するのでしょうか。

この場合には、詐欺罪(刑法246条1項)に当たる可能性があります。詐欺罪の法定刑は「10年以下1ヵ月以上の懲役」になります。偽造通貨行使等罪に比べると、懲役の上限が無期から10年に、下限が3年から1ヵ月になりますので、刑が大きく軽くなります。

 

今回のケースを見てみましょう。

詐欺罪の場合、相手を欺く行為が必要になります。欺く行為は、簡単にいうと、真実ではないことを真実であるかのように装って、相手に真実であるかのように勘違いさせようとする行為です。

たしかにA君は、店員さんに「百万円」札を渡し、100円のお菓子と9900円のお釣りを受け取りました。しかし、「百万円」札を一万円札であるかのように装っていたのかは、「百万円」札の渡し方などの状況によります。A君が、「百万円」と書いてある部分がよく見えるように渡したのか、それとも、一見すると一万円札に見えるように折り曲げて渡したのか、など細かい事情から、欺く行為に当たるかどうかが判断され、詐欺罪といえるかどうかが決まります。

 

この他にも、おもちゃのお札を渡したことによって、コンビニの営業などに支障が出た場合には、偽計業務妨害罪(刑法233条)などに問われるおそれがあります。

 

このように、中学生のA君にとっては遊び半分でしてしまった行為であっても、立派な犯罪が成立します。同じような事例で警察が「逮捕」したケースもあります。

未成年者が逮捕されると、成人と同じように警察の留置施設で身体拘束され、刑事から取調べを受けます。逮捕後、検察官の請求によってなされる「勾留」という10日間(最大20日間)の身体拘束は、少年法では「例外」とされていますが、実際の運用では「捜査の必要がある」ということで、多くのケースで勾留がなされ、成人と同じように身体拘束が続き、刑事や検事の取調べを受けることになります。そして、いったん逮捕されると、(それが成人であれば裁判にかけられなかったり、罰金で済むような)比較的軽微な事件であっても、必ず家庭裁判所に送られ、少年鑑別所に入ることになったり、少年審判を受けることになります。

万が一、A君のように、ちょっとした遊び心で犯罪を犯してしまったときには、すぐに少年事件に詳しい弁護士に相談し、被害店舗に対する被害弁償や謝罪を進めるなどして、逮捕されないように最善を尽くすべきです。また、逮捕されてしまった場合は、弁護士は、弁護人・付添人として、ご家族と協力し、少しでも身体拘束の期間を短くしたり、家庭裁判所で受ける処分が軽くなるよう様々な活動をすることになります。

【コラム】相手に謝罪を求めたら強要罪?

2015-06-25

1 相手に土下座をさせることは犯罪になりうる

昨今、市役所職員や、コンビニエンスストアの店員の対応が悪いことに腹を立て、土下座をさせたことで、土下座をさせた側が逮捕されたという事件を耳にすることがあります。特に、SNSの発展に伴い、土下座をさせた側が面白半分にインターネット上にこれを公開して発覚するケースが多いのではないかと思います。

相手の落ち度に対し、謝らせて何が悪い、と思う方もいるかもしれません。しかし、相手に土下座を求めることは、これからお話しするように強要罪にあたる可能性があるため、冷静になる必要があります。

 

2 強要罪とは

強要罪は、刑法223条に規定されている罪です。

1、生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
2、親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3、前2項の罪の未遂は、罰する。

「人に義務のないことを行わせ」とあります。対応が悪い店員は謝るのが義務だろうと思われるかもしれません。しかし、ここでいう義務とは、基本的には法律上の義務ということになりますので、道徳上するべきだというだけでは、義務があることとはいえません。

 

3 ボーダーラインは

強要罪というためには、義務のない行為をさせるために、「脅迫または暴行」を用いることが必要となります。
法律上、脅迫または暴行をせずに、単に「土下座をして謝って欲しい」と普通に言っただけでは、本罪は成立しません。淡々と謝罪を求め、その結果として相手が謝罪をしたとしても、何ら罪にはなりません。

ここでの「脅迫」は、条文に書いてあるとおり、親族または本人の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知することがこれにあたります。

「暴行」について、どの程度の行為が暴行に当たるかは、かなり広く考えられており、相手の自由な意思決定を妨げる程度と考えられています。したがって、直接相手に向けられた暴行でなくても、義務がないことをさせるために、相手の近くで大きな音を立てたり、物を破壊したりしたとしても本罪に当てはまる可能性は十分にあります。

 

4 土下座をさせた場合に犯罪となるケース

冒頭にあげました、土下座をさせたという場合ですと、どのような過程を経て土下座という義務のない行為をさせるに至ったかという点が問題になります。

土下座させる前に、相手を小突いたり、店のカウンターをガンガン叩いたりすれば、それは暴行にあたりますし、「お店を潰すぞ」などといえば、相手の財産への害を加える旨を伝えることになりますから、脅迫にあたります。一方で、こういった暴行脅迫を伴わずに土下座を求めただけであれば、強要罪にはあたりません。

もっとも、店舗などに居座ったり大きな声を出し続ければ、不退去罪(刑法130条)や威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性もあります。また、仮に犯罪にあたらなくても、土下座を求めるということ自体、行き過ぎだとして世間の批判を浴びるおそれもあります。現代社会において、土下座を求めることは基本的には避けたほうが賢明だといえます。

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